手足をのびのびと自由に動かせること。締めつけず体のめぐりを邪魔しないこと。その人本来の存在を輝かせること。この3つを基本に、自分の体で一つずつ確かめながら「進化させていった形」が、日常の服と下着の「器の衣」です。ワークショップは、誰でもかんたんにつくれる手縫いの会にしています。用いる素材は、「主張しない」麻と綿が中心。まずはオーガニックコットンの「ちちあて」と「ふんどし」の下着で、日々の心地よさを実感してもらえたらと思っています。紐も綿麻なので、体にやさしくフィット。また、ちちあては背中の紐がたすき掛けのようにバッテン構造なので、胸が開く理にかなった形。とても気持ちがいいです。布の手触りを感じながら、ひと針ひと針、縫う時間と空間。自分のものを時間をかけてつくることは、自分を大事にすることにつながっていきます。ゆっくり楽しく、いっしょにちくちくしましょう。

ちくちくの会

心と体が呼吸できる服

服をつくりたいと思ったのは、アトピーが悪化して着られるものが何もなかったからなんです。市販の服はどれも、皮膚が痛くなったり、むれてかゆみが我慢できなかったり。どうすれば風通しがよく、自分が心地よく過ごせるための服になるのか—— 。試行錯誤を重ねて出来上がった「器の衣」は、たとえていうなら、虫や動物が長い歳月をかけて「いちばん動きやすくて合理的な形」に進化していった、そんなイメージの服です。

「自然」ってすごくシンプルで合理的でそこが好きなんですけど、着るものでいえば着物がそうかな。ゴムなどで不自然に締め付けることがないし、あったかくて涼しくて、姿勢も正せる。いつも同じ形だから、よけいなものもいらないですよね。でも、だからといって昔に戻ろうというのではなく、「いまが昔の合理性から学んだ未来」であればいいと思っています。「器の衣」を着るようになって、私は体温が上がり、血色や姿勢もよくなりました。生理痛や皮膚炎や便秘など、いろんな症状も改善。天然素材なのでエネルギーの循環を邪魔しないし、汗や毒素を吸い取ってくれる。夏涼しく冬あったかいのも気に入っています。

ちくちくの会

心地よい日々を共有したい

大阪にいる頃は、怒りとか悲しみとか苦しみにも正当な意味がある。そういう感性も大事にしたいと、絵に表現したりしていました。でも広島に帰ったら、自然とツーツーだった子どもの頃の世界観が少しずつよみがえってきて。ステロイドもほかの薬も、もっといえば肌を気にすることも全部手放しました。無農薬の野菜をていねいに料理し感謝していただいたり、植物を煮出してその煮汁を飲んだりお風呂に入れたりしていたら、今度は、美しいとか幸せとか、そういうものを形にしたくなったんです。

大地や光やあらゆるエネルギーがくれる希望を、ライブイベントで体現して大きな絵にしました。そしてこの満たされた感覚を、誰かに伝えたくなって。服をつくる目的も変わってきました。「その人を包みたい。自由な存在を邪魔しないための衣をつくりたい」って思ったんです。飾らないありのままをみんなが大事にしたら、人も世の中も、もっと豊かになるんじゃないだろうか。自然からたくさんのものをいただいて感謝して、何かを返してそれが循環する。そういう心地よい空間、自然な日々の共有をこれからもしていきたいです。

どい ともえ
Doi Tomoe

「器の衣」「ちくちくの会」主宰。ライブペイントアーティスト。

自然から与えてもらっている「美しいもの」を写真に写し取り、伝えられたらと、大阪へ写真の勉強にいったのが19歳のとき。都会の不条理と不自然さが一気に体の中になだれ込み、自画像を描いたり心理学を学んだり、オープンアートスペースをつくるなど、自分の感覚を証明、表現することで生きる意味を見出そうともがく。6年後、郷里の広島に戻り、マンションの一室でシェアハウス「utsuwa」を立ち上げる。「もっと自然に近づきたい」という思いが募り、2018年、山の麓の古民家を改修して、自然な日々の共有空間「器」を創造。自由に絵を描く、ちくちく手縫いで服をつくる、身近な植物でチンキづくりといった日々の暮らしの時間をていねいに紡いでいくワークショップを開催している。「器の衣」と名付けたオリジナルの服をまとい、のびやかに体と心を泳がせながら、「日々が美しいことをいつも体現していたい」と願う、透き通った感性の持ち主。