野菜を、ただただ美味しく楽しく、おしゃべりしながら食べてもらうランチをつくっています。メニューは、大好きな農家さんから届いた旬の野菜の顔を見てから。「この野菜、美味しいね」と、料理法ではなく野菜そのものに注目してもらえたらしめたもの。野菜の持ち味が最大限に生きるよう、邪魔をしないようにと心がけています。たとえば、旬の盛りなら少しの塩で十分うまみが引き出せるし、走りのものはちょっと水っぽかったり青っぽいので、食べやすい味付けに。また、名残の野菜は種を残そうとしているから筋があったり甘みも減ってきているので、そこをカバーするくらいです。栄養の説明とか講釈は、ほとんどしません。食べる人に、自由に気楽に野菜に親しんでもらいたいんです。頭から入るのではなく、食べて感じる。そういうわかりやすいところから、本物の野菜がくれる「何か」に気づいてもらえたらうれしいです。
野菜をもっと好きになってほしい
お米のご飯と旬の野菜が大好きで、それさえあれば満ちたりた気持ちになります。ご飯は空気のような、あってあたりまえ、つねにいる存在。野菜は季節によってとれるものが違うから、「あ、トマト出てきた。夏来るんだ」「あ、おいも出てきた。秋来るんだ」。「久しぶり、また会えたね」とうれしくなります。新しい品種には「初めまして。あなたはどうやって使えばいいの?」とごあいさつ。野菜はいつも私をワクワクさせてくれる存在なんです。色や香りや手にしたときの感触に、ワ~ってなっちゃう。
とくに愛情を注がれて育った野菜は、同じ種類でも見た目も個性的なんですよ。ちょっとでこぼこだったり色も微妙に違う。だから愛おしいと思えるのかな。うっかり「このコ」って呼んじゃうのはそのせいかもしれません。味も、シャープな農家さんのはスッとする、シャンとする味だったり、おおらかな農家さんのは柔らかい自由な味がします。隅から隅まで食べてあげたいなと思います。土がついていても気にならない。全部受け止めたい、受け入れたいという気持ちに自然とさせてくれるんです。ゴミが出ないのもいいですよね。
自然に寄り添うだけで体も心も楽に
本物の野菜を食べることで「本物」に気づいてほしい。そうすると多分、物事の見方や感じ方もちょっと変わってきて、幸せになれる気がします。
以前の私は栄養士の資格をもっていることもあり、がんばって30品目バランスよくとっていました。でも、それは数字の上でのことであって、実際に身になっているのかどうかはわからない。それより、体を涼しくするものを食べて夏を過ごすとか、温めるものを食べて寒さに備えるといったように、同じ風土でとれる旬の野菜を食べていれば、その季節に適合できる体に自然となれるんじゃないでしょうか。にんじんのβカロチンが、トマトのリコピンがと、頭で食べるのではなく、旬のもの、身近にあるものをありがたく食べればいいだけ。体も心もとっても楽になれます。本物って、そういうものじゃないかなと思います。
小さい娘がいるんですけれど、彼女はぬか漬けや苦い野菜も美味しそうに食べます。でも、食べないときはまったく食べない。甘いものだから好きとも限らない。そのとき体が欲しているものを、自信をもって選んでる。迷いのないあの感性がうらやましいです。
山崎 ユーミ
Yamazaki Yumi
野菜愛好家。栄養士。
食べることが大好きだった、東京でのOL時代。自然栽培の野菜を扱う「ナチュラルハーモニー」に転職し、「かんたんで美味しくて野菜しか使わないレシピづくり」を毎日、お昼休みに担当。野菜の多彩な個性、旬で変化する味わい、育てる人の愛に気づかされる。知れば知るほど本物の野菜に魅せられ、「もっと野菜と仲良くなりたい」「地産地消のナチュラルライフを送りたい」と2016年冬に広島、同じ年の夏には尾道へ。「私はただただ、野菜が好きな人なんです」と発信し続けていたらカフェの日替わりシェフやイベントでの出張シェフ、親子料理教室などの依頼が自然にめぐってくるように。「主役にもなれるけど、和洋中どんな料理でも陰でいい脇役をやってくれる。我がなくすごく自由で扱いも楽な、あのまあるい玉ねぎみたいな人になりたいです」。