イトオテルミーという温熱療法で、体に熱を入れていきます。ひと言でいえば、全身の代謝がよくなり、元気になるのがいちばんの特徴。テルミー線という線香を使うのですけど、熱の波長がほかのお灸と比べて体に浸透しやすいという実感があります。
施術はカウンセリングから。どういう不調があるのか、どんな生活習慣なのかなどを聞いてから、テルミーを当てていきます。うつ伏せになってもらい、経絡に沿って足裏から首のあたりまでかけたら、今度はあお向けで同様に。次は座った状態で肩や頭を。冷えやむくみ、腫れがあるかどうか、筋肉の状態はどうかなどを診ながら、気になるところには丹念に当てていきます。ホカホカするという程度の熱さなので、気持ちよくリラックスできます。背中を軽くゆすって腰をほぐす動きなどを取り入れたり、食事や運動のアドバイスも。
民間療法はいろいろ試しているので、勉強したい方がいたら喜んでお話会もします。
テルミーはいわば “血管のマッサージ”
ぼくは鍼灸師なので、未病の見立てができます。「疲れやすい」「冷え性」「胃腸の調子が悪い」「腰痛がある」etc。いろんな方がさまざまな理由で訪ねてこられますが、未病の段階なら自分でも予防ができます。もちろん治療もしますしアドバイスもするのですけれど、基本は、自分で自分の健康を守ることができるようになってほしい。そのための手段として、イトオテルミーという温灸の施術を、普及を兼ねてしています。
テルミーのイチ推しは元気になれる点です。専用の器具を使い熱を経絡に沿って入れていきますが、熱が入ることで代謝を助けてくれるんですね。血行がうながされ熱循環が活発になり、その結果、血色がよくなったり筋肉の疲れがほぐれたり、むくんでいる人ならむくみがすぐになくなるし、冷えも改善。自律神経やホルモン分泌の働きもととのってきます。ずっと続けていけば、低体温の人も少しずつ体温が上がってきますよ。程よい熱さなので体中がふわ~っと温まってきて、とても気持ちがいいのもテルミーのよさです。冷えは万病の元。テルミーは病気になりにくい体をつくるスグレモノだと思います。
自然治癒力は奇跡をも起こす
鍼灸の国家資格を取ったのが2005年のこと。卒業後、デイサービスやデイケアでの介護助手をしたり、鍼灸整骨院に就職したりもしたんですが、「ぼくがやりたいのはチーム医療ではなく、一人の人をトータルで診ること。その夢をあきらめたくない」という思いが募り、現在に至っています。
自然治癒力を高めることで、その人の生活を応援したい。これに尽きるのですが、そういう考えになったきっかけは、学校の保健師をしていた叔母の影響かな。弟子にしてもらった森美智代先生も、もとはといえば叔母の知り合いでしたから。その師匠の鍼灸院で西式健康法の食事療法や体操を学んだのですが、じつは叔母の急性関節リューマチ炎も母の敗血症も、西式の考え方に助けられた点が多かったんです。「人間って、あそこまで容体が悪化しても治るんやな」。人の体がもつ潜在能力、自然治癒力の不思議さに驚かされたのを、いまもはっきりと覚えています。
自分の体を自分で運転する自由
鍼灸の経絡治療には、本治と標治という概念があります。本治は根本解決のための治療、標治は局所的な症状、たとえば肩こりとか腰痛を何とかしようとする治療です。ぼくはこれに食事のことや運動療法なども取り入れて、バランスよく患者さんを診ていきたいと思っています。
このとき肝心なのは、生活習慣の改善をいっしょに模索するということ。鍼灸やテルミー、西式健康法や操体法など、ぼくには自然療法の引き出しがいろいろあるので、その人の仕事や生活を考慮したうえで、できない方法ではなく「できること」を提示していきたいんです。自分と対話してもらって、工夫できる余地を相談しあうというか。
例をあげると、前かがみの姿勢が多い仕事の人は、体操で緊張をほぐす習慣をつけるだけでヘルニアになりにくくなります。職業病から解放される。この工夫ができるようになると、人は自由になれます。他人まかせで治してもらうという発想ではなく、自分で自分をコントロールできるようになる、そういう自由さです。
家庭でできる療法を広めたい
ぼくがテルミーを好きなのも、自立して自由に生きていきたいから。創始者の「家庭療法を増やしていきたい」という理念に共鳴しているからです。未病を治すことができるし、自分だけではなく老人介護や子どもとのスキンシップにも役立ちます。これ、すごく大きいと思うんです。そして、ちょっとお腹が痛くても熱を入れたらおさまるとか、膝や腰が痛いのが和らぐとか、安心感につながるのがいいですね。
もちろん、治療としての特殊なかけ方もあります。低体温などは特定の臓器に原因がある場合もあるので、その臓器がうまく働くよう、スイッチを入れるやり法です。骨格のバランスがととのうような当て方もあります。でも、いちばん肝心なのは腎や肝の働きをよくし、代謝を上げること。そのためには温めるのがいちばんで、それなら誰もが自分でできる範疇です。テルミーが広まった背景には、海軍の存在があったそうです。いつも海の風にさらされている軍人たちは、体の芯まで冷えきって筋肉のこわばりもひどい。それをテルミーで治療したらどんどんよくなって、ものすごく喜ばれたと聞いています。さあ、温めましょう。
三宅 悠平
Miyake Yuhei
「和治鍼灸院」主宰。テルミー療術師。
急性関節リューマチ炎で命が危うかった叔母が、鍼や断食療法でみるみるうちに回復。「鍼の可能性はすごい!」と、明治鍼灸大学(現・明治国際医療大学)へ。知れば知るほど東洋医学のおもしろさ、奥深さにハマり、在学中の2002年、もっと勉強したいと“不食の人”で話題を呼んだ鍼灸師・森美智代さんに、押しかけ弟子入りする。自然療法の学びを深めるかたわら、故郷の大阪で「和治鍼灸院」を開業。「病気治しは生活のクセ直しから」という東洋医学の大家の言葉を胸に、食事療法、運動療法、生活のしかたを患者さんといっしょに模索し、鍼やテルミー温灸で「治る道筋」をサポートしている。2018年から、尾道と大阪のダブル拠点で施術。やさしく世話好き。つねに学び続ける謙虚さが「安心」と「信頼」を生む人。
イトオテルミーとは
イトオテルミーのテルミーとは、ギリシア語で「温熱を利用した療法」のこと。故・伊藤金逸医学博士が10数年かけて完成させた、誰でも手軽に安全にできるお灸の一スタイル。金属のスティック(冷温器)にヨモギなどの生薬成分の入ったお灸の棒(テルミー線)を入れ、火をつけてから外管に挿入。二本1セットで体の表面を摩擦していく。もう一つ、テルミースコープという器具があり、こちらは輻射熱を利用してやさしく熱を入れていくのが特徴。自分でもやってみたい人は、イトオテルミー親友会のHPをチェック。
経絡とは
東洋医学では、人の体には目には見えない「気」が流れていると考えられている。そのエネルギーラインが経絡。経絡の流れをととのえることで体が本来もっている回復力を高め、治癒に向かわせようとするのが経絡治療で、鍼灸の治療法の一つである。
森美智代先生とは
一日青汁1杯と数種類のサプリメントだけで、20年以上元気に生きている鍼灸師が森美智代さん。21歳のとき難病の脊髄小脳変性症にかかり、「5年か、もって10年の命」と宣告されるも、西式療法(健康法)で克服。著書やドキュメンタリー映画が話題を呼んだ。彼女の腸内細菌叢を調べた生物学者・辨野義己博士によると、腸内のアンモニアからアミノ酸をつくる細菌が牛並みに多かったそう。体がもつ未知の可能性をふくよかな体で体現している。
西式健康法とは
西勝造氏が1927年に確立した西洋医学の逆をいく健康法。16歳のとき20歳まで生きられないかもと医師に見放されるが、医師のいうことと逆のことをしたらどんどん体調が回復。東西の医療書を片っ端から読みあさり、研究を続け、独自の見解を体系化した。断食療法、骨格をととのえる金魚運動などの体操、皮膚の機能に着目した冷温浴や裸療法などで知られ、あとに続く自然療法家に多大な影響を与えた。東京の地下鉄のもとをつくった人でもある。
操体法とは
痛い方向ではなく気持ちのいい方向に体を動かすことで、体のゆがみをとっていくセルフケア術。健康というものを、「息」「食」「動」「想」に「環境」を加えてこの5つのバランスがとれている状態としている。仙台の医師・橋本敬三氏(1993年没)が自らさまざまな民間療法を実践し、肉体の変化をとらえて編み出した。いつでも、どこでも手軽にできる健康法として、全国的に広まっている。