「のどや舌などの使い方、発声の方法」を学ぶ狭義のヴォイストレーニングではなく、自分の声を体に響かせることで細胞を活性化し、体も心もととのえていこうというユニークなセルフケアです。まずは、本来の自然な姿勢に戻していくアレキサンダーテクニークを参考にしながら軽くストレッチ。体がほぐれたところで、中国の思想家・莊子が発端といわれる足芯呼吸や丹田呼吸(腹式呼吸の一種)で息の流れをととのえ、体内のエネルギーの通りをよくしていきます。後半は実際に声を出しながら、歌いながら、体が自分の声にどう反応していくかを体感。日本神話に由来するアワ歌やインドのお祈りガヤトリマントラなどに声をのせていきながら、とくに母音の響きを体という楽器で味わいます。

あづヴォイトレ・エクササイズ

倍音の出る声が、体と心と魂を調和させる

ふだん何気なく発している声。あなたの、その声は自然ですか? どこか詰まっていたり、力みが入っていませんか。体は楽器と同じで、きちんと調律・調整すれば心地よい声が自然と出てきます。倍音(2以上の整数倍の周波数をもつ音の成分)という「幅を感じさせる響きのある音」があるのですが、私は歌がうまくなりたくて、どうしたら自分の声から倍音が出せるのか、探究し続けてきました。そしたらね。体をととのえれば、ととのったいい響きの声が出ることに気づいたんです。さらに、いい響きの声は、自分自身を癒してくれることにも。

倍音は突き刺さるような直線ではなく、共鳴して波紋のように広がっていく音です。その細かい粒子の音が体の中をスピンしながら巡っていくと、全身の細胞が揺り動かされ、浄化されたり活性化されていく。宇宙の理と同じです。陰と陽がスピンして絶えず新しいエネルギーが生まれ、森羅万象のバランスがととのう。いい声を出すということは、体の健康だけでなく、心と体と魂のバランスもととのえていくことにつながるんだなって。

あづヴォイトレ・エクササイズ

呼吸や発声は、日々できるセルフケア

まずは、体の機能を呼び覚ますことが肝心。呼吸法、息のしかたにその鍵があります。「天とつながる呼吸法」や「大地とつながる呼吸法」でエネルギーが通りやすい体にととのえたり、「丹田呼吸法」で本来その人がもっている気を練ったり。丹田を意識することは、スポーツ選手や武道家の間では昔からあたりまえのこと。私も毎朝、しています。時間がないときは3分でも5分でもいいから、起き上がる前に布団の中でするのをおすすめ。自律神経の働きもととのうし、その日の体調や体の動きがきっと快適になると思います。

毎日、ストレッチや呼吸法で自分の体と対話をしていると、そのうち意識せずとも自然な体の使い方や呼吸法が身についてきます。これが私の伝えたいこと。おのずとセルフケアができるようになります。

そして、声を出していくときに、体の前面だけではなく背面も意識してみて。背面からも声を響かせることができるんですよ。声で体を自在に操れる、表現の引き出しがたくさんできます。体という楽器を存分に楽しみましょう!

安土明中子
Azuchi Minako

「あづヴォイトレ・エクササイズ」主宰。歌い手。

大好きな芝居と平行して、28歳のとき始めたのがシャンソンの勉強。理想とする声の出し方を探究していくなかでヴォイストレーニングの必要性を感じ、全身を使う発声法の大切さを知る。役者や歌手活動のかたわら、東京・銀座に自分の店をもち、大恋愛をし、30代は波乱万丈のエネルギッシュな日々。そんな人生に大転機が訪れたのが、42歳での脳腫瘍摘出手術。故郷の大阪に帰り、石笛奏者の横澤和也氏に丹田呼吸をベースにしたレッスンを受ける。その後、体を自然な状態に戻すアレキサンダーテクニークと出逢い、ますます、声と体の関係、両者がもつ無限の可能性の世界に入り込む。声による気功、倍音を体に響かせる「あづヴォイトレ・エクササイズ」を確立し、2017年に移住した愛媛県大三島を拠点に、各地でワークショップや歌のライヴを開催。現在は「セルフケアができる癒しの家を島につくる」夢が実現し、準備に大わらわ。

アレキサンダーテクニークとは
オーストラリアの俳優アレキサンダーが、突然出なくなった声をなんとかしようと、体の位置や動かし方と声の出具合いを鏡の前で研究し、体系化した心身の調整法。大切なのは、体の声に耳を澄ませること。頭と首、背骨の緊張をとり自然な姿勢に戻すことで、声の出し方や呼吸法、体のクセなどの改善はもとより、その人の可能性が自由に十分に発揮されると唱えた。

足芯呼吸とは
まず、足の裏を意識。大木が根から水を吸い上げ枝の葉先まで養分や水分を運ぶようなイメージで息を吸い、足からおなか、頭の先まで息というエネルギーをめぐらせる。吐くときは逆に、息が頭からおなか、足の順に、根っこから大地に戻るようなイメージで。地にしっかり足がつき、心身が落ち着いてくる呼吸法。